腸内フローラとは何か?最新研究も含め、わかりやすく紹介します

更新:2021年03月12日
この記事の監修者
烏山 司 先生(消化器内科医/日本スポーツ協会公認スポーツドクター)

消化器内科医として勤務する傍ら、スポーツドクター資格も取得。一般の方からアスリートまで、専門である消化器を中心に内科領域全般の診療を行っている。

「腸内フローラ」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。実は人間のおなかの中にはさまざまな細菌がいて、なわばり争いをしています。腸内の様子を顕微鏡で覗くと、たくさんの細菌がお花畑(フローラ)のように広がっているのが見えることから、腸内細菌の群れを「腸内フローラ」と呼んでいます。近年、腸内フローラが人間にとって大事な役割を果たしていることが分かってきました。この記事では、腸内フローラについて、最新研究も含めてご紹介します。

腸内フローラとは何か?

腸の長さは大腸・小腸合わせて約9m。その内側にはひだがあり、細かく折りたたまれたひだを広げると、テニスコート1面分の広さがあります。

そこに約1000種類の細菌が、数にして100兆個住んでいます。人間の身体の細胞は60兆個と言われており、細菌の方が細胞より多いほどです。細菌の総重量は1~2kgで、大きなペットボトル1本分ほどの重さになります。この腸内フローラは体の健康にとって大切な役割をもつことから、「もうひとつの臓器」とも呼ばれています。

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それでは、腸内細菌の種類や役割について、もう少し細かく見ていきましょう。

腸内細菌の種類、役割とそのバランスとは

腸内細菌には、大きく分けて人間に有益な「善玉菌」と、有害な「悪玉菌」、その中間の「日和見菌」があります。ビフィズス菌や乳酸菌に代表される善玉菌は、人間の身体が消化・吸収できない食物繊維をエサとして食べて生活しています。その際、短鎖脂肪酸(酢酸、プロビオン酸、酪酸、乳酸等)という物質を生み出しておなかの中を弱酸性にし、悪玉菌が増殖しにくい環境を作ってくれます。

一方、ウェルシュ菌や大腸菌に代表されるような悪玉菌はおなかをこわす原因になります。しかし、これまで悪玉菌とされてきた細菌の中にも、身体に有益な機能を持つものが見つかり、腸内細菌は多様性とバランスが重要であることがわかっています。細菌の理想的な構成比率は、善玉菌20%、悪玉菌10%、日和見菌70%と言われています。

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腸内細菌の構成比は、年齢とともに変化します。赤ちゃんの腸内は、母親の胎内にいる時は無菌状態ですが、生後しばらくしてさまざまな菌が増え、ビフィズス菌が優勢となり、成年期には腸内細菌のバランスが安定化します。そして、高齢になるとビフィズス菌が減り、代わりにウェルシュ菌や大腸菌などの悪玉菌が増えてきます。高齢になると、便秘になる方が増えますが、原因は食生活や運動機能の低下だけでなく、腸内フローラ中のビフィズス菌が減少する影響もあります。

加齢によるビフィズス菌の減少は誰にでも起こることですが、ビフィズス菌発酵乳を飲むことで、週2回だった排便回数が4回以上に改善した研究がありますので、食生活に気をつけることが大切です。[1]

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また、腸内に炎症などがないのに便秘や下痢を繰り返し、腹痛や腹部の不快感を訴える「過敏性腸症候群」という病気があります。その原因の一つとして、腸内フローラのバランスがくずれて悪玉菌が増えると、腹痛や腹部の不快を感じやすくなる知覚過敏が起こりやすくなるということが分かってきました。[2]

このように、腸内フローラはおなかのコンディションに大きな影響を与えていますが、このことは、テレビなどで特集される機会も多いため、すでにご存じの方も多いかもしれません。

しかし近年では、腸内フローラはおなか以外にもさまざまな影響を与えることが明らかになっています。

この記事では、

  • 腸内フローラと脳の関わり
  • 腸内フローラとアレルギー性疾患の関わり
  • 腸内フローラと糖尿病の関わり

について紹介したいと思います。

腸内フローラと脳の関わり

近年では「脳腸相関」という言葉が知られるようになりましたが、脳と腸の密接な関わりを示す病気についての研究が盛んに行われています。代表的な脳の病気であるうつ病にも腸内フローラが関係していることが分かっています。

先ほど、腸内フローラが乱れることで起こる「過敏性腸症候群」という病気を紹介しました。健康な人の場合、過敏性腸症候群にかかる割合は約1割と言われていますが、うつ病の人は約3割が過敏性腸症候群を発症するという研究があります。 [3]

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しかし、おなかの中のことがなぜ脳に影響するのかと不思議に感じますよね。そのメカニズムも少しずつ分かってきています。

腸内フローラで、うつ病を予防する"幸せホルモン"を合成する

腸内フローラ中の善玉菌には、うつ病の人に不足している脳の神経伝達物質「セロトニン」を合成できる可能性があるそうです。[4]

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セロトニンは、精神を安定させる働きをもち、「幸せホルモン」とも呼ばれている物質です。うつ病の人ではその働きが抑制されてしまっているので、抗うつ薬はセロトニンを増やす作用を持っています。セロトニンは、人間の身体の中で95%が腸に存在し、腸の運動を促しています。うつ病の人は、幸せホルモンのバランスがおなかの中から変化している可能性が考えられます。[4][5]

実際に、日本人のうつ病患者の腸内フローラを分析すると、健康な人より善玉菌が少ないことが分かっています。ヨーロッパで1000人を調べた研究でも、同様にうつ病の人の腸内フローラには善玉菌の数が少ないという結果が出ています。

つまり、うつ病患者の腸内フローラで善玉菌が減ってしまうことにより、合成されるセロトニンの量が減り、その結果として精神状態に影響が出ている可能性があります。

腸内の善玉菌が作り出す物質が神経細胞の成長に影響

他にも腸内フローラが脳に影響するメカニズムが分かってきています。

うつ病の原因として、神経細胞の成長に必要な「BDNF」というタンパク質の不足が関係するという説があります。マウスに「酪酸」を食べさせると、BDNFが増えることが報告されていますが、この酪酸という物質は、腸内の善玉菌が作り出す「短鎖脂肪酸」という物質のひとつです。つまり、腸内フローラの善玉菌が酪酸を作り出し、BDNFを増加させて、うつになりにくくしているというわけです。[6][7]

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では続いて、腸内フローラとアレルギー性疾患の関わりについて紹介します。

腸内フローラとアレルギー性疾患の関わり

腸内フローラは、アトピー性皮膚炎などのアレルギー性疾患に関係しているとことが分かってきています。

アレルギー性疾患は、外からの異物に対して身体の免疫が過剰に反応することによって起こる炎症が原因で、例えばアトピー性皮膚炎であれば皮膚で、花粉症であれば目や鼻で症状が起こることが多いですね。

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なぜ腸内フローラが関係するのか不思議に感じませんか。実は、そもそも腸は、免疫と深い関係がある臓器なんです。

腸と免疫の深い関係

腸には食べ物と一緒に微生物が入ってくるので、絶えず外界にさらされています。そのため、微生物や異物から身体を守るべく免疫システムが発達しており、人間の身体の中の免疫細胞の70%が腸に存在します。その一方で、栄養となる食べ物の成分は攻撃せずに身体に吸収する必要があります。これが腸における「経口免疫寛容」と呼ばれるシステムです。

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「経口免疫寛容」が働かないと、食べ物として摂取した成分を免疫細胞が攻撃すべき異物として認識してしまい、過剰な免疫反応によって炎症が生じてしまいます。これがアレルギー症状になります。

免疫細胞が食べ物と異物を正しく見分けられるようになる過程に、腸内フローラが関わっています。実際、マウスを無菌状態で育てると、身体によさそうに思えるかもしれませんが、腸内フローラが存在しないために経口免疫寛容が未発達となり、アレルギー性疾患を起こしやすくなってしまうのです。[9]

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腸内フローラがアレルギー性疾患に関係する理由はわかっていただけたでしょうか。それでは、アレルギー性疾患がある人や動物の腸内フローラを調べた研究を見てみましょう。

腸内フローラとアトピー性皮膚炎の関係

アトピー性皮膚炎の子どもの腸内フローラに善玉菌であるビフィズス菌が少ないことが研究でわかっています。生後1週間から1年の間に、健康な乳児の腸内フローラにはビフィズス菌が42%~69%の割合で存在するのですが、アトピー性皮膚炎の子どもには17%~39%しか存在しませんでした。

健康な乳児の腸内フローラ ビフィズス菌が42%~69%の割合で存在
アトピー性皮膚炎の乳児の腸内フローラ ビフィズス菌が17%~39%の割合で存在

この腸内フローラの状態が、子どもが2才になった時にアトピー性皮膚炎を発症しているかどうかに影響していると考えられます。[10]

また、アトピー性皮膚炎になっていない子どもに乳酸菌を与えると、アトピー性皮膚炎の発症確率が半減するという研究もあります。[11]

腸内フローラと食物アレルギーの関係

2019年には、無菌マウスを使った研究が行われています。

無菌マウスはアレルギー性疾患を起こしやすいのですが、健康な人間の大便に含まれる腸内細菌を、無菌マウスの腸内に移植すると、アレルギーが抑制されます。一方、食物アレルギーの人の腸内細菌を移植しても、アレルギーは抑制されませんでした。[12]

この研究結果から、腸内フローラの状態がアレルギー性疾患の発症に影響している可能性がうかがえます。

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腸内フローラと糖尿病の関わり

厚生労働省がまとめた「2017年患者調査の概況」によると、現在日本人の約330万人が糖尿病にかかっていますが、腸内フローラは、糖尿病にも関係していると言われています。[14]

糖尿病には、膵臓のβ細胞が壊れることで血糖値を低下させるインスリンが分泌できなくなる「1型糖尿病」と、主に生活習慣病が原因とされるインスリンの作用不足で起こる「2型糖尿病」があります。順に、腸内フローラとの関係を見てみましょう。

腸内フローラと1型糖尿病の関係

1型糖尿病は、免疫が過剰に働き、膵臓のβ細胞を壊してしまうことによって生じる自己免疫疾患です。この1型糖尿病に、腸内フローラが関係していることが分かりました。

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腸内フローラの中の善玉菌は「短鎖脂肪酸」という物質を産生します。この短鎖脂肪酸が「Tレグ細胞」という免疫制御細胞に影響し、過剰な免疫を抑制しています。腸内フローラ中の善玉菌が減少すると、短鎖脂肪酸も減少して、過剰な免疫が膵臓のβ細胞を壊し、1型糖尿病となってしまうケースがあります。[13]

実際にこんな研究があります。1型糖尿病になりやすいマウスを無菌状態で育てると、1型糖尿病になります。ところがこのマウスに腸内フローラ移植すると、糖尿病にならないという結果が出ます。腸内フローラが糖尿病を防いでくれることがあります。[13]

腸内フローラと2型糖尿病の関係

腸内フローラ中の善玉菌は、食物繊維を分解して「短鎖脂肪酸」という物質を産生します。この短鎖脂肪酸は、「GLP-1」と呼ばれる物質を介して、インスリンの分泌も促進します。つまり、腸内フローラが、糖尿病に関係するインスリンに影響しているわけです。[13]

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また、善玉菌が生み出す短鎖脂肪酸は、腸のバリア機能の維持にも重要な役割を果たしています。このバリア機能が破綻すると、細菌が作る毒素などが血液中へ侵入し、全身に小さな炎症を引き起こします。炎症が慢性的になると、インスリンに反応してブドウ糖を取り込む臓器(肝臓や骨格筋など)が炎症を起こし、インスリンに反応しなくなります。その結果、臓器が血中のブドウ糖を取り込めないことで、血糖値が下がらなくなってしまいます。

研究によると、2型糖尿病患者の腸内は、短鎖脂肪酸を産生する善玉菌が減少していることが見つかりました。腸内フローラが乱れて善玉菌が減少すると、短鎖脂肪酸の量が減少し、腸のバリア機能の低下を通して糖尿病が引き起こされると考えられます。[13]

腸内フローラのバランスを保つ2つの方法

いかがでしょう。腸内フローラは便秘・下痢といったおなかの不調を整えるだけでなく、うつ病、アトピー性皮膚炎やアレルギー性疾患、糖尿病など、多くの体の不調に関係があるようです。これが「もうひとつの臓器」と呼ばれる理由です。

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腸内フローラのバランスを保つ方法のひとつは、生きた善玉菌を含む発酵食品に代表される「プロバイオティクス」を摂ることです。ヨーグルト、乳酸菌飲料、納豆、ぬか漬けなどに豊富に含まれています。

もう一つは、おなかの中の微生物のエサとなる「プレバイオティクス」である食物繊維やオリゴ糖を摂ることです。食物繊維が豊富な食べものはネバネバしているものが多く、こんぶ、わかめ、ひじき、もずく、めかぶなどの海藻や、なめこ、オクラ、山芋、納豆などが代表的です。また、オリゴ糖は、カリフラワー、キャベツ、たまねぎ、ごぼう、にんにく、大豆、バナナ、はちみつなどに多く含まれています。

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これらの食べものを積極的にとることでおなかの中の善玉菌を養って腸内フローラのバランスを整え、健康を維持したいですね。

参考文献

  1. 日本老年医学会雑誌, 19巻6号「寝たきり高齢者の排便傾向とビフィズス菌発酵乳の排便回数に対する飲用効果」
  2. オムロン「腸内細菌の乱れによって起こる過敏性腸症候群」
  3. 朝日新聞Reライフ.net, 2019/12/23「うつ病の人の腸内細菌を調べたら... 調査から見えること」
  4. Forbes Japan, 2019/2/7「うつ病と「腸内細菌」に関連性? 欧州で大規模調査」
  5. 『腸と脳』エムラン・メイヤー著, 1章31ページ
  6. 興和「どうして腸は大切なの?」
  7. 酪酸菌大百科「酪酸が脳に与える影響」
  8. 日本生物学的精神医学会誌, 22巻2号「うつ病での脳由来神経栄養因子(BDNF)の血中動態」
  9. J Allergy Clin Immunol, Vol.111, No.3, Differences in fecal microflora between patients with atopic dermatitis and healthy control subjects
  10. 経口免役寛容と腸内細菌叢"、アレルギー 56(6), 549-556, 2007
  11. J Allergy Clin Immunol, Vol.108, No.4,Allergy development and the intestinal microflora during the first year of life
  12. Probiotics in Primary Prevention of Atopic Disease, Lancet 2001, 357:1076-1079
  13. Sci. Signal., Vol.12, Issue 591, Bugs in the gut dictate food allergy
  14. 日本内科学会雑誌, 104巻1号, 肥満・糖尿病と腸内細菌
  15. 厚生労働省「2017年患者調査の概況
この記事の監修者
烏山 司 先生(消化器内科医/日本スポーツ協会公認スポーツドクター)

消化器内科医として勤務する傍ら、スポーツドクター資格も取得。一般の方からアスリートまで、専門である消化器を中心に内科領域全般の診療を行っている。

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